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   胸のあたりのズシっとした重さに気がつきまだ眠たい目をゆっくりと開ける。  いつもと違う景色に一瞬焦ったがすぐに思い出した。昨夜は松田くんの家に泊まった事を。  胸のあたりの重さは松田くんの腕がまるで逃がさないと言わんばかりにガッチリと私をホールドしていて動けない。  チラッと松田くんを見るとまだぐっすりと眠っていた。  綺麗な顔だな……といつまでも見ていられる。  寝顔はなんだか普段よりあどけなく感じ、暫く眺めていると「んんっ」と松田くんが寝返りをするのに身体を動かし、腕から解放されたのですきを見て起き上がった。   「おはようございます」 「っふぇ!? あ、おはよう、起きたのね」 「今起きました、本当は真紀より早く起きて寝顔を見てるつもりだったのに」 「やめてよっ、寝起きは髪の毛もボサボサでヤバいんだから!」  もしかしてヨダレ垂らしてたかも! と焦り顔を松田くんから逸らし口元を触ってみるがざらついてはいない。多分大丈夫かな……?  「洗面所に行ってくるわ、借りるわね」 「ん、じゃあ俺はリビングに行って誠を起こして朝ごはんの準備しておきますね、パンでいいですか?」 「うん、松田くんの作るものはなんでも好きよ」 「……朝から幸せすぎて怖いくらい」  本当松田くんの言う通りで幸せすぎて怖いくらいだ。 もしかしたらこの幸せは絶頂期でこれからズドーンと何かが起こり最悪の展開になっていくのかもしれないと思ってしまう。そんな事は少女漫画でしかあり得ないだろうと思いつつも少し不安になってしまう。  洗面所で顔を洗い身だしなみを整えていると「おい、誠起きろ!」と大きな声で誠を起こしている松田くんの声が聞こえた。思わず笑みが溢れてしまう。  リビングに戻ると既に誠は起きていて布団もしっかりと畳まれていた。  チンっとトースターの音がし、パンが焼けた事を知らせる。 「……誠さん、おはよう御座います」 「あー、おはよ」  誠はやはり、なんとなくだが松田くんに対する態度と私に対する態度は違うように感じる。何というか……やっぱり一番最初に見た時のあの敵意の目は見間違いじゃなかったのかもしれない。 「できたぞ~」  パンの香ばしい匂いと共に松田くんが三人分の朝食をローテーブルに並べる。  こんがり焼いた食パンにたっぷりのバター、目玉焼きには焼いたベーコンとサラダ付き。ご丁寧に飲み物に野菜ジュースまで用意されている。  三人でローテーブルを囲い「頂きます」と手を合わせ食べ始めた。 「ねぇ、真紀さんは今日暇なの?」 「えっ、わ、私?」  急に誠に話しかけられて驚きを隠せなかった。だってついさっきまで敵意を向けられていたと思っていたから。 「えっ、ま、まぁ日曜日で仕事も休みだけど……」 「ふーん、じゃあ今日は私の買い物に付き合ってくれない? 女同士で買い物したかったのよ~!」 「は!? 二人きりとかダメに決まってんだろ! 真紀は今日も俺と一緒にいるんだから」  あーだこーだと二人の口論が始まり、終わる気配が感じ取れない。 「あー、じゃあもう三人で行きましょうよ!」 「え……真紀本気で言ってます?」 「私も誠さんと仲良くなりたいし、ね? いいでしょ?」  明らかに嫌だと顔に出ている松田くんだが、じゃあ三人でなら、と渋々OKを出してくれた。  三人とも身支度が済んだ頃には午前十時を回っていた。松田くんの車に乗り込み一番近いショッピングモールに向かう事に、ただ気になるのは助手席は私じゃなくて真っ先に誠が乗ってしまった事。  やっぱり……そう言うことなのかな? と後部座席から仲良さそうな二人の背中を見てモヤモヤしていた。  また一度は溢れた黒い何かが一滴、一滴と溜まっていく。  車を走らせ三十分しない所にある大型ショッピングモール。立体駐車場に車を駐め三人でモール内に入った。 「買い物っても誠は何を買いに来たんだ?」 「え~そりゃ新しい服とか、下着とかに決まってるじゃないっ!」  テンション高めに誠が返答し、やはり見た目は完璧に可愛い女子だ。 「せっかく真紀さんがいるんだもん女同士で洋服とか見たくて~、ね? 真紀さん!」 「え、えぇ、そうね、あんまり友達とかと洋服見たりしないから新鮮だわ」 「じゃあ、俺が真紀に似合う服を選びますよ」 「えー大雅が選ぶより絶対私が選んだ方が可愛いから! ね、後で二人で下着見に行きましょう?」 「おい! お前は要らないだろ!」 「え、私いつもつけてるわよ? だから胸の膨らみがあるでしょうよ!」  二人の話がどんどん飛んでいくので、あはは、と笑いが止まらなくなる。  なんだかんだ言い争いながらレディース物の服屋に入り色んな服を見て回った。  誠は見た目は完璧に女性だ。昨日のお風呂上がりはいつもクルクルに巻いてある髪がストレートになっていて、化粧もしていない状態だと完全に見た目はロン毛の男の人だった。  けれどレディースの服を着てメイクをしっかりと施すと女子顔負けの可愛い女の子に大変身する。  この短時間一緒にいるだけで誠は可愛くて素直な人なんだと分かった気がする。  メンズ服も見て回ったが、本当にこんなイケメンが自分の彼氏だなんて信じられないと思えるくらいすれ違う度に女の人達が松田くんを見て振り返っていた。 「ねぇ、そろそろ下着見に行きたいから大雅はどっかその辺のカフェで待っててよ」 「は!? お前本気で真紀と下着見に行こうとしてんのか!? 絶対ダメ!」 「えー、真紀さんいいよね? 私見た目も心も女だからっ!」  お願いっ、と言われんばかりにキラキラとした目で見つめられてしまってはいいよ、としか言えない。 「あぁ、うん、私は大丈夫よ」 「ほらねー! じゃあ男性禁止なんで大雅はどっか行ってて!」 「え……本当に大丈夫ですか?」  心配そうに眉間に皺を寄せ私に問いかける松田くんに「大丈夫よ」と返事をし誠と二人で下着を見に行く事にした。  松田くんは少ししょんぼりした背中で一人カフェに向かって歩いて行った。  ショッピングモールの二階にあるランジェリーショップは可愛い物からセクシーな物まで揃っていて見るだけでちょっと楽しい。 「ねぇ、真紀さんは普段どんなのしてるの~?」  心は女の子と分かっていてもなんとも返しずらい質問に「シンプルなやつばっかりよ」と模範解答になるような返事をした。 「ふーん、で、もう大雅とはヤッたんでしょ?」 「えぇ!? ななななんでっ」  下着を見ながら平然と聞いてくる誠に驚きと動揺が隠せない。 「そりゃ付き合ってればヤるのは当然だし、てか大雅って手が早いでしょ?」 「え……」  急な男の声に身体が凍りついた。  手が早いってどういう事?
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