ハッキリさせた方がいいんですー1

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ハッキリさせた方がいいんですー1

 アラームが鳴り手探りでスマホを探すがなかなか見当たらない。重い身体を起こし周りを見渡す。松田くんの腕の下敷きになっているのを見つけスッと抜き取りアラームを止めた。 「んん……真紀……おはようございます」 「ん、おはよう」 「もうちょっと、こっち来て?」  寝癖がピョンと跳ねていて可愛い。 「ちょっとだけだよっ」  もう一度布団に入り直し松田くんの肌の温もりをもう一度感じた。心地の良い心臓の音の響き。布団から出たくなくなる。 「あーもうダメ! 時間だよ、起きなきゃ!」 「ですねぇ~、先に洗面所使ってください、俺は朝ご飯の準備しておきますから」  朝から松田くんのご飯を食べて幸せな気持ちいっぱいで松田くんのアパートを出た。もちろん昨日松田くんが買ってきてくれたストッキングを履いて。  二人電車に揺られ会社に向かう。もし会社の人になんで二人でいるのか聞かれたらたまたま電車で会ったで話を合わせよう、と話しながら結局誰にも会わずに会社に着いた。  自分のデスクに座りメールチェックをしながら昨日の事を思い出す。昨日は自分でも驚くほど大胆になれた気がする。  松田くんの気持ちもしっかりと確認でき、自分の気持ちもちゃんと伝えることができて本当によかった。  そもそもは誠の発言が原因だが…… (やばい! 好きって言われて舞い上がって誠さんの事すっかり忘れてた!)  自分だけが松田くんと上手く収まって……なんて誠が知ったらきっとまた妬み、苦しむだろう。  私が誠の立場だったら悔しくて辛くて一人苦しんでるかもしれない。  もう一度きちんと話し合いたい。 私は松田くんに誠の連絡先を聞き連絡をする事にした。 「誠さんの連絡先教えて」と松田くんに言った時は物凄い形相で「なんでですか!」なんて嫉妬心丸出しだったけど、この前の買った服の話があって、と苦し紛れの嘘をついた。渋々だが誠の連絡を教えてもらう事ができた。 "こんにちは、水野です。松田くんに連絡先を教えてもらいました。今日の夜お時間ありますか? よければ夜ご飯どこかに食べに行きませんか? 大事な話があります"  返事はすぐに来なかったので夜まで気長に待つ事にした。 「水野さん、凄い眉間に皺が寄ってますけど大丈夫ですか?」 「え、ああ、大丈夫よ」  ブーブーと携帯のバイブ音がデスクの上で鳴り、誠からの返事かもしれないとスマホを確認すると松田くんからのメールだった。 "今日の夜は何処かで食べていきませんか?"  チラリと隣を確認すると返事に期待をしてワクワク感が溢れ出ている松田くん。  ごめん! と思いながら返事を返した。 "ごめん! 今日は用事があるからまた今度"  松田くんのスマホのバイブ音が鳴り携帯を確認するなりデスクに顔を突っ伏して落ち込んでいた。  なんてわかりやすい生き物なんだろう……そんな松田くんが可愛いと思ってしまう自分も重症だ。 "残念ですけど、じゃあまた明日にでも" "じゃあ明日は夜で、今日はランチ行かない?" "行く!!!"  松田くんを見るとパァアっと明るい笑顔に戻りニコニコしながらパソコンのメールチェックをしている。  本当に素直で可愛い。 きっと私にはないこの素直さに無性に惹かれているのかもしれない。  松田くんに返事を返したのにまだ未読のメールがある事に気づき、開くと誠からの返信だった。 "いいよ、じゃあ駅前の海鮮居酒屋に八時集合ね"  よかった。誠が会ってくれることにホッと胸を撫で下ろした。  でも、どんなことを言われるのか、正直不安だ。  十二時になったので松田くんと一緒に会社を出て今日もまた中華料理店に行く事にした。  二人でランチに会社に出ても上司と部下の関係だからか誰一人と不思議に思う人はいないのだろう。特に何も言われる事なく会社を出た。 「久しぶりにこの店来ましたね、初めて来た日は俺が入社二日目とかでしたもんね」 「そうね」  メニューを開きながら何にしようか悩む。今日は麻婆セットに決め、松田くんも「俺も麻婆豆腐にしようと思ってました!」と言うので二人とも麻婆豆腐セットを頼んだ。  私はこのランチ時間で松田くんに聞きたい事があってランチに誘ったのだ。誠の事、誠に対してどのように思っているのか松田くんの気持ちを知りたい。家族のように大切に思っているのは分かっているが、もっと踏み込んだ所まで知りたい。 「そういえば松田くんと誠さん、家族みたいな存在って言ってたけど、本当に大学までずっと一緒だったんだね」 「ですね、てか誠が勝手に同じ学校をいつも受験してるんですよね、それで社会人になるまでずっと一緒でした」 「本当にずっと一緒だ、大切で特別な関係だね」 「まぁ最初の頃は金魚のフンみたいにくっついてきて正直ウザいと思った事もありましたけど、でもやっぱり今までずっと一人だったから一緒に居てくれる人がいるってのは内心嬉しかったですね、誠にはなんだかんだ救われて来ましたよ」  二人の良い関係性を目の当たりにして目の奥がツンとなる。  もしかするとだが松田くんは誠が自分を恋愛対象として好きな事を全く気づいていないのかもしれない。勝手に同じ学校って、国立なんて大変だし生半可な気持ちじゃついていけないよね…… 「例えばどんな事で救われたの?」 「ん~小学生の時とか、俺と誠がずっと一緒にいるからキモいとか親が居ないとか可哀想ってやっぱり虐められてて、俺はなんとも思わなかったんだけど、誠はグッと食いしばって我慢してたんです、それなのに俺だけに突っかかってきた男の子がいて、そしたらずっと食いしばってた誠がその男の子に殴りかかって大雅の事を悪く言う奴は許さない! って泣きながら叫んでましたね、まぁ言うまで間も無く施設の人を呼び出しで校長室で大怒られですよ」 「そりゃ怒られるわよね、小学生だもの」 「でもその時嬉しかったんです、俺本当に感性に欠けてたんですけどその時は本当に嬉しいと思いましたね、ずっと我慢してたのに誠が俺の為にって、その事件があってからは俺らの事とやかく言う子は殆どいなくなりましたよ」 「そうなんだ、じゃあその事件が起きたお陰だね!」 「だから俺も誠の事はできる限り守ってやりたいと思いました、同じ境遇だからこそ分かり合えるものがあったのかな。でも俺は親に捨てられたから悲しいとかは思った事ないですけどね」  松田くんは明るく言っている言っているが眼鏡の奥の瞳が少し澱んでいるように見えた。本当は悲しいのに上手く言えないだけなのかもしれない。だからこそ松田くんと誠は本当に支え合って生きてきたんだな、その支えの中に私も入れたらな……。でも二人の関係性を確かめる事ができて良かった。  だからこそ、誠ときちんと話したいと思った。  お待たせしました~と熱々の麻婆豆腐セットが運ばれてきてからは二人ともフーフー息で冷ましながら食べ進めた。
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