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 午後からは鬼のように働いた。  最近残業続きだったので今日は八時までに終わらせられるようにキューピッチで仕事進めたおかげで七時半に仕事が終わった。  ギリギリセーフと言ったところだ。  残業している松田くんにお疲れ様、と声をかけ急足で会社を出た。  駅前にある海鮮居酒屋は個室になっていて二人で話をするにはちょうどいい場所だ。  お店の外で誠が来るのを待っていると、すぐに前方から誠が向かってくるのが見えた。今日も完璧な可愛さで、水色のロングコートの中には白いニットワンピにスラッとした脚のラインが綺麗に出ているデニムで更に脚が長く見える。それに引き換え私は仕事終わりでボロボロの顔にシワシワのスーツ。比べる余地もない。 「誠さん、今日は来てくれてありがとう」 「いいよ、私も話があったし、寒いからさっさと入ろ」  スタスタと私の横を通り過ぎお店に入っていく誠を追いかけるように店に入った。  入って目の前にある大きな水槽には小走りな私とは正反対の魚達が優雅に泳いでいる。  店員さんに奥の個室に案内されお互い無言で個室に入り向かい合って座った。  なんとも言えないピリついた空気に気が重くなる。 「で、話って何よ。この前の事だったら私は謝らないわよ」  先に沈黙を破ったのは誠の方だった。  案内と同時に用意されたお冷をグッと半分飲み干し話す覚悟を決める。 「この前誠さんが私に松田くんと別れろって言ってきたけど、私は絶対に別れません。もう百パーセント彼を信じれるって自信を持って言えるわ」  自分で言ってて顔が赤くなっていくのが見なくても分かるくらい熱い。反対に誠の顔は青褪め、目はギラギラと怒りに満ちていた。 「何? 今日はそれだけを言いに来た訳? とんだ茶番だわ」 「やっぱりちゃんと話さないとって思って……自己満かもしれないけど、誠さんにはちゃんと知ってて欲しかったから」 「私は幸せです自慢しにきたってわけ?」 「違っ! 私は今まで恥ずかしい気持ちが勝っちゃっててなかなか素直に自分の気持ちを伝えることが苦手だったの……それでもやっぱりちゃんと素直に気持ちを伝えるとスッキリするし、なによりお互い気持ちが分かり合えて凄くプラスな関係になれると思うんだ……その、だから……」 「だから私にも大雅に気持ちをちゃんと伝えろって言いたい訳?」  誠は見事に私の思考を読み取り呆れたように笑い出す。 「ははは、私が大雅に好きですって今更言って何になるの? 逆に失うもののリスクが大きすぎるわ」  誠の声のトーンもどんどん低くなり怒っている事がひしひしと伝わる。 「失うって何を?」 「はぁ? そんなの決まってるじゃん、大雅の事を失いたくないから。それだけ」 「私は松田くんがもし誠さんの気持ちを知ったとしてもちゃんと答えてくれると思うし、気持ちを知ったからって離れていくとは思えない」 「……何、私は大雅の事よく知ってるって言いたいの? そうゆうのウザいよ」  確かに今私が言っていることはお節介だと重々承知の上だが、このまま誠とギクシャクした関係にはなりたくない。松田くんの大切な人だから。 「松田くんは誠さんの事大切だってハッキリと言ってた! 本当よ、これから先私だって誠さんと仲良くしたいって本気で思ってる、だってこうやって私にキツいこと言うけど本当は優しい子って分かるから……」  今まで全てを松田くんの為に頑張ってきた誠からしたら私はただの邪魔者。それでも私は松田くんが好き。どうにか分かって欲しい…… 「ふーん、じゃあお酒で私に勝てたら考えてあげる」 「お、お酒……いいわ! やる!」  大丈夫。めったに人前で酔う事はない。気を張ってれば大丈夫だろう。
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