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※この先痴漢表現がありますが、行為を助長するものではありません。
* * *
「……っ、ん……」
太腿を触られている感触で意識が浮上した。鞄が間違って触れているようなものではない。隣から伸びる手がいやらしく太腿の内側を撫で回す。
「騒いだら痛くするぞ」
相手の顔を見ると思いのほか若く20代くらいの男性だった。紺のスーツをビシッと決めていて、見た目は爽やかそうな青年だ。首から提げている社員証らしきものを盗み見てやろうかと思ったが、肝心のネームプレート部分が内ポケットに隠されていて見ることは叶わない。
「俺、男なんで。やめていただけますか……」
新幹線の中でくらい、ゆっくり休ませてほしい。それに薬を飲んだにもかかわらず胃痛が治まっていないことの方が三神峯にとっては重要だった。
そもそも東京を出たときは別の女性が座っていたはずだから、この物好きな男性は名古屋あたりから乗車してきたのだろう。
「マジ? 見えないね。俺、男が趣味ってわけじゃないけどお兄さんならいいや」
「はあ……」
昔から女性に間違われて痴漢に遭うことは珍しいことではなかった。大抵の人は男だと分かると諦めていったが、たまにこうして引き下がらない物好きもいる。いくら多様性の時代で女性がパンツスタイルのスーツを着るようになったとしても、さすがに男女のスーツの違いは見てわかるだろう。とは言え、男の手を振り払えないほど女々しくはない。
「っん……!?」
そう思った矢先、突然顎を掴まれて、相手の指が唇をなぞりはじめた。ゾクゾクと背筋に電流が走る感覚に、思わず体の力が抜けてしまう。
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