ep.7

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 金剛沢はそう言いながら吸い殻を灰皿スタンドに捨て、新しく煙草をセットしていた。吸うスピードが早い彼は、実のところヘビースモーカーだ。 「俺、専門職の業務まで詳しく知らないけど。報告書って、三神峯さんみたいな若手が抱えるものなの?」 「なわけねえだろ。若手はとにかく実験だ。うちの方針としても報告書は主任や係長以上の役職者が持つことになってるし、報告書を抱えるからこそ、相対的に実験の時間が減っていく。そうやってバランスをとってるはずなのに、両方任せられている三神峯がどんな業務量なのかお前だって想像つくだろ」  金剛沢の声は怒りの色が含まれているせいで、いつも以上に荒くなっている。それだけ薬事研究課では業務が回っていないのだろう。金剛沢は新しい煙草に口をつけ、深く煙を吐くと今度は小さく呟いた。 「……三神峯、男とは思えないほど美人だったし、思った以上に細くて、繊細で。……ちょっと触るのに戸惑った」 「げっほッ!」  その言葉に御堂は思い切り咳込んだ。冷酷で仕事一筋な金剛沢の口からそんな言葉が出るとは思わなかったし、まさか三神峯に触っていたとは。大丈夫かよ、と怪訝な表情をする金剛沢に噛みつく勢いで御堂は顔を上げた。 「は!? 触ったの!? どこを!?」 「は!? いや、触ったっつっても腹痛そうに蹲ってたから背中擦ってやっただけだぞ!?」  思わず声を荒らげた御堂に、金剛沢もつられて顔を赤くしながら声を荒らげる。金剛沢からそう聞いた途端、御堂は肩の力が抜けたように深くため息をついた。
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