ep.8

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ep.8

   静まり返った誰もいないオフィスで、三神峯は静かにため息を吐いた。オフィスの時計はすでに深夜の4時を回っており、三神峯自身の集中力も限界を訴えていた。最早深夜と言っていいのか明け方と言っていいのかわからない時間帯だが。 (もう少しだからしっかりしろ、俺。せっかくみんなが手伝ってくれていつもよりだいぶ早く仕上がっているんだから)  研究課の社員が積極的に手伝ってくれたおかげで、遅れていた新規化合物の研究自体は早くに仕上がった。だが、それまで黙っていた中田が報告をまとめるのはリーダー様の仕事だろ、と言ったことでいつものように研究結果のまとめ以降は全て三神峯一人に任されてしまった。  報告書を作ることが苦というわけではないが、容赦なく積まれていく他の案件にも振り回されるせいで、集中して報告書に没頭できるのは勤務時間外しかない。もう少し日中も時間を割けられればいいのだが、このスケジュールがタスクスケジュールを極限までに調整した結果である。 「……駄目だ、今日はこれくらいにしよう」  パソコンの画面と実験結果のメモ、過去のデータとにらめっこをしながらキーボードを叩くが、打ち込んでは消し、打ち込んでは消し、という作業をくり返すだけで数行も進まない。結局これ以上パソコンに向かっていても時間だけが過ぎていくだけだと、三神峯はデータを保存して荷物をまとめた。
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