ep.8

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 ――ピピピ、ピピピ…… 「ん……」  三神峯がアラームの音で目を覚ましたのは、ベッドに入ってから2時間後だった。アラームを手探りで止め、気怠い体を起こす。熱を帯びているような体と違和感を覚えた腹部に嫌な予感を感じたが、気が付かないふりをした。 「やっぱスマホが使えないと不便だな……」  ベッドボードに投げられたスマートフォンは、何をどう試しても電源がつくことはなかった。仕事の連絡は仕事用のスマートフォンを使用しているし、元々あまりスマートフォンを弄ることをしないので特に心配はない。だが、その便利さに自然と依存しているようでやはり使えないとなると不便でなものである。  連絡がつかない自分を、御堂は怒っているかもしれない。  今週末こそ修理に行こう。そう思いながら三神峯はベッドを降りて身支度を整えると、キッチンに立って冷蔵庫から経口飲料ゼリーを取り出す。薬の味を誤魔化したような甘味料の味がどうしても得意ではなかったが、味よりもとにかく何か腹に入ればなんだっていい。冷たさでさらに味を誤魔化したゼリーを半分だけ飲んだところで胃が限界を訴えてしまった。  ゼリー飲料ですら飲みきれなくなったのはいつからだろう。残りの半分は捨ててしまった。 「こんなんじゃまた先生に怒られそう」  こんな生活を続けていれば検査のたびに数値が悪くなるのは目に見えてわかることだ。次回の検査で主治医に言われそうな言葉を頭に思い浮かべて、三神峯は自分を嘲笑う。 (ああ、でも……)  御堂に心配をかけるのは、嫌かもしれない。
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