ep.8

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 ほとんどものを食べていない胃から吐き出されるのはたかが知れていたが、三神峯は赤く染まった手を見てさすがに血の気が引いた。吐き出したものは、胃液に混じった血の塊だった。限界を訴えている体に三神峯の頭の処理も追い付かない。  それでも片隅ではどこか冷静で、軽く食事をしたらすぐに家を出られるようにとすでにスーツを着ていた自分を恨みたいだとか、袖が血で赤く染まってしまった白いワイシャツはもう捨てるしかないだとか、そんなどうでもいいことばかり巡っている。  胃酸の独特な臭いが胃を刺激して吐き気と嗚咽が止まらなかったが、また血を吐き出したらと考えると怖くて無理にかみ殺した。 (……ダメかも)  いくら急ぎの案件とはいえ、この状態でまともな報告書が書けるわけがない。三神峯はワイシャツもネクタイも汚れてしまうことに諦めて床に倒れこんだ。 「っ、げほ……っ、かずき、たすけて、かずき……っ」  結局吐き気に耐えられず何度か赤い血が口から吐き出されたが、うわごとのように御堂の名前を呼んで、大丈夫だと自分に言い聞かせた。御堂の名前を呼んだところで彼が駆けつけるわけではないが、縋るものが、それしかなかった。  無理しすぎたかなあ。体が弱いのは昔からだし、去年だって研究に没頭して夜遅くまで残業することはあったんだけど。胃痛を放っておいたのが悪いのかなあ。 「早く、連絡しないと……」  三神峯は体を起こし、ふらつく体を必死に支えてテーブルに置いていた社用のスマートフォンに手を伸ばした。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー <お知らせ>  三神峯の苦難がもう少し続くので、その中和にとスター特典にて春デートの短編を掲載しました!(完結済)  1スターで読めるので、本編共々よろしくお願いいたします。 【https://estar.jp/extra_novels/25958008
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