ep.8

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* * * (吐血、原因……。たしか胃潰瘍(いかいよう)とか十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)だったような気がするけど……)  三神峯が通っている病院は、三神峯の出身大学でもある大きい大学病院だ。  あれから大野田に腹痛がひどく、病院に行って検査を受けるから遅れるという旨を連絡をすると、彼は驚いたような声を電話口で出し、今進めている研究の進捗は中田に確認するように言っておくから心配しなくていい、と言われた。  検査が終わればすぐに出社するとだけ伝え、病院まではタクシーを使った。電車を乗り継いでも行けなくはない距離だが、乗車率が100%を越えるこの時間の満員電車に揺られることを考えるだけで症状が悪化しそうだったため、諦めてタクシーを選んだ。 (社用のスマホがここで役立つとは思わなかった)  吐き気と腹痛は、意外にもあれからすぐに治まった。自分が吐き出した吐瀉物を掃除して、汚れたワイシャツとネクタイは見えないように紙袋に入れて捨ててきた。今日がごみの日でよかったかもしれないと思いながら。 「……三神峯?」  病院の入口でかけられた聞き覚えのある声に、三神峯は顔を上げる。 「……金剛沢さん」  顔を上げた先にいたのは金剛沢だ。先日のこともあって少しだけ気まずいうえ、さらに今は例の案件のことでまた迷惑をかけている。できれば会いたくなかった人物に思わず言葉を失っていると、先に口を開いたのは金剛沢だった。 「どうした? 顔色悪いけど大丈夫か?」 「……あ、いえ、ちょっと検査に」 「検査?」
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