ep.8

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 適当に言葉を濁したつもりが、金剛沢はかえって訝しげに首を傾げてしまった。きっと白黒をはっきりとさせたい性格であろう金剛沢には、物足りない回答だったのだろう。金剛沢は少し考えた素振りを見せたあと、心配そうな表情を浮かべて言葉を続けた。 「……この前腹痛そうにしてたのと関係はあるのか?」  本当に、痛いところに気がつく人だ。いや、初対面からあんな姿を見せてしまえば、嫌でも印象に強く残ってしまうだろう。きっと逆の立場なら自分も同じことを聞くと思うからだ。 「関係がないわけではないですけど、大丈夫です。金剛沢さんこそ、どうしてここに?」  三神峯はこれ以上詮索されないように話を切り上げ、話題を変えた。何かを感じ取ったのか、金剛沢もそれ以上触れようとはしなかった。 「俺は人間ドッグ。去年も酒の飲みすぎで肝機能が引っかかってるからあんまりやりたくねえけど。改善しようとしてないしな」 「……ふふ、そうなんですね」  酒とたばこはやめらんねえんだよ、そう思いがけず複雑そうな表情を浮かべた金剛沢につい笑みがこぼれてしまう。冷酷で厳しいと評判の金剛沢がばつの悪そうな顔をしているなんて。彼が少しだけ可愛く思えた。 「――……三神峯」 「え、あ、すみません。決して体が悪いことを笑ったわけじゃなくて……」 「いや、分かってる。そうじゃなくて……」  金剛沢は驚いた表情を浮かべたあと、照れ臭そうに声を小さくした。 「笑った方がいいな、お前は」 「――……」 「お前は笑ってるほうが似合ってる。悪い、隣の課なのに何もできなくて」 「そんな、金剛沢さんが謝ることでは」
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