ep.8

9/26
前へ
/192ページ
次へ
「……御堂が、お前のこと心配してた。部署が違うから直接的に何もできねえって」  御堂、という名前に突然胸が締め付けられた。  あのとき展示会で御堂に出会わなければ、きっと血を吐いたとしても無理に出社していただろう。自分の体を少しだけ大事にしたいと思ったのは、御堂に心配をかけさせたくないからだ。心配をかけさせたくないと思えば思うほど、きっと御堂には心配と迷惑しかかけていないが。  何も反応しない三神峯を見て、今度は申し訳なさそうに金剛沢は言葉を続けた。 「言い訳にすぎねえけど、三神峯とは直接会ったことなかったし、中田のことを聞いてても男なんだから解決できるだろって思ってた。だけどこの前苦しんでるお前を見て、放っていたことにすげえ後悔した。……悪かったな」  研究自体は好きだし、仕事は楽しいと思っている。どんなに仕事が増えようと中田に暴力を振るわれようと、研究が嫌いになることはななかった。それはきっと、今も、これからも。だが、今その仕事が原因で体が悲鳴を上げているのも事実だ。 (……俺は、どうしたらいいんだろう) 「……三神峯? どうした?」 『景、どうしたの?』 「っ、かず……」  金剛沢が心配そうに覗き込んだ顔と言葉が、どうしてか御堂と重なった。顔立ちだって、声だって身長だって違うのに。思わず御堂の名前を呼びそうになったが、目の前にいるのは御堂ではなく金剛沢だ。三神峯は開きかけた口を慌てて噤んだ。 「……いえ、何でもないです。ご心配ありがとうございます」
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1512人が本棚に入れています
本棚に追加