ep.8

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「……俺の連絡先、教えとくわ。何かあったら夜中でも朝でも、時間なんか気にせず連絡してこい」  金剛沢はそう言ってポケットから名刺とボールペンを取り出すと、名刺の余白に携帯番号とメッセージアカウントのIDであろう英数字を書き出して三神峯に渡した。金剛沢らしい、力強い筆跡だ。 「……ありがとう、ございます……」 「今すぐには動けないかもしれねえけど、必ず何とかしてやる。だから、俺たちを信じろ」  時間だから悪い、と早歩きで病院内に入っていった金剛沢を見送りながらしばらく三神峯はその場に立ち尽くしていた。若いの、どうしたの、と老夫婦に声をかけられるまで、涙が頬を伝っていたことに気が付かなかった。  その涙はきっと、悲しさからの涙ばかりではない。
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