ep.8

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 普段は穏やかな主治医がいつも以上に険しい表情をしている。普段は、といってもここ最近は検査結果の数値が悪かったから毎回険しい表情はしていたが。それでも今日は三神峯が覚えている限り、一番険しい気がする。 「どう、でしょう……。動けるくらいには軽減されましたが、吐いたからといって軽減されたわけではないです。数日前にも同じ症状があって、その時は吐かなかったんですけど」 「……そっか、わかった。今回のは出血性の胃炎だけど、本来胃が原因の吐血は胃酸の影響で黒っぽい血になるんだ。……でも、それが赤かったってことは、胃酸の影響が受けられないほど大量に出血していたってことだよ」  主治医はそう言うとしばらく黙ってしまった。 「先生……?」  どのくらい沈黙が続いただろうか、きっと時間で見れば1分にも満たない数十秒だったのだろうけど。三神峯にとっては、数分にも、数十分にも思えた。  ふう、と息を吐いて、意を決したように主治医が口を開く。 「景くん、こんなこと、言いたくなかったんだけどね」 「……はい」 「もともと体の弱い景くんは、体を酷使しすぎて限界が来ている。今のままの生活を続けていればいつ死んでしまってもおかしくないよ。それは数年後でも、今すぐでもおかしくないくらいだ」  三神峯は唇を噛んで目線を落とした。それは、自分でもわかっている。 「景くんはまだ若いから、仕事も働き盛りだし、きっと大切な家族だっていると思う。俺は医者として、主治医として、景くんには人生を楽しんでもらいたい。……今日は仕事があるだろうから薬の投与と点滴処置にするけど、もう、これも限界だからね」
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