ep.8

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(大切な……、和樹に迷惑がかかるのも、和樹に心配をかけるのもたしかに嫌だなあ……)  念を押すような主治医の言葉に頷いて看護師に案内されるがまま処置室に向かった。看護師がしきりに歩けるか尋ねてくるものだからそんなに心配はいらないと言えば、いつもの看護師は「いつ倒れてもおかしくない体の状態なんですよ」と少し怒り気味に答えた。 「三神峯さん、気分が悪くなったらナースコールで呼んでくださいね」  機械に取り付けられた点滴を見て三神峯は深くため息を吐く。こんなときでも頭に浮かぶのは職場のことだ。  あの研究報告書はまだ途中だったが、中田はそれを考慮して見てくれただろうか。  ーーいや、報告書まで抱えているとは知らない大野田は研究の進捗状況としか伝えていないだろうから、報告書を見てくれていればいい方だ。見てくれていたとして、自分の都合で未完成のものを見せているのだからそこは指摘されるに決まっているだろう。  いつから自分は何かに怯えながら研究をするようになったのだろうか。 (……数年後でもおかしくないって、()()()()()()かな。……効率が悪くてうまく立ち回れない俺への罰か。笑える)  いつ死んでしまってもおかしくない、それは、主治医が警告として大げさに言ったのか、事実を遠回しに伝えたのか。いずれにせよ、これ以上考えたくないことだ。ズキズキと痛むお腹をさすりながら三神峯はベッドの上で体を丸めた。  ――お前みたいな役立たず、死んだって誰も何も思わねえんだろうな。かわいそ。 (こんなときに限って、あの言葉思い出すし……)
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