ep.8

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* * * 「もう21時か……」  実験研究を終えた三神峯は、研究室を出てようやく自分のデスクに戻ってきた。  あれから点滴処置をすべて終えて病院を出たのは15時を過ぎたところで、結局出社できたのは夕方だった。大野田からは「大丈夫? 無理に出てこなくても、休んでもよかったんだよ」と言葉をかけてもらったが、急ぎの仕事があるからと答えて席に戻った。出社した直後から、中田の視線が痛かったからだ。 (これでデータは万全のはず)  大野田が話を通してくれたおかげで報告書は中田と坪沼に確認してもらえていたが、席に戻るとすぐに中田に呼び出されて説教を受けた。  印刷された報告書を机に叩きつけながら、こんな内容で承認が得られると思っているのか、エビデンスのデータが足りない、大体、腹痛くらいで急に休むな、他の社員に迷惑がかかることを考えないのか。そんなことを懇々と言われた気がする。 (……今は落ち着いてるし、やっぱり病院に行けるような体力があったなら朝から来るべきだったかな……)  他の社員に迷惑になるということは三神峯が一番よくわかっている。人が足りず忙しいときに急に休んだこと、それも午前中だけではなく午後にまで差し掛かってしまったこと。それは三神峯自身も負い目を感じていたが、かといって血を吐いたから出社できなかったと事実を言う気もなかった。 「はあ……」 「三神峯、大丈夫か? 本調子じゃないんだろ」 「……越路(こえじ)さん。大丈夫です。修正箇所を直したら僕もすぐに帰ります」
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