ep.8

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 中田のデスクの電話が光っていることに気づいた三神峯は、どの部署からかかってきたのか首を傾げながら自分のデスクの電話へ転送させる。開発課だとしたら催促じゃないといいな、と内心願いながら受話器を取った。 「はい、代わりに取りました三神峯です」 『お疲れ様です、御堂です。……あれ、三神峯さん』 「――……御堂さん」 『遅くまでお疲れ様。もしかして薬研課は三神峯さんだけ? 中田主任は帰ったかな』  電話の相手は御堂だった。彼は三神峯が出たことに驚いた声を出していたが、心なしか、声が柔らかくなった気がする。  ――久しぶりに彼の声を聞いた。それもそうだ、連絡すらまともに取ろうとしていなかったのだから。御堂の声にどこか安心してしまって、答えようとしてもなかなか言葉が出てこない。話したいことはたくさんあるはずなのに。  何も言わない三神峯を肯定の意と捉えたのか、御堂は話を続けた。 『中田主任に話があったんだけど、さすがにもういないか。いないならまた明日かけなおすよ』 「え……何かあった? 俺で対応できることであれば……」 『いや、大丈夫。仕事のことっていうより、俺が個人的に聞きたいことがあっただけだから。三神峯さんは気にしないで』 「そう……」  中田主任には社用のスマホにかけてもチャット送っても無視されるんだよ、と御堂は笑いながら言う。そこまで来ると中田は故意的に御堂からの連絡を無視しているのではないだろうか。それでも気にしていない様子の御堂に、怖いもの知らずな彼らしいとも思った。 『直接内線かければ否応なしに出るかなって思ってね。仕事が忙しいだろうに邪魔してごめんね。三神峯さんも無理しないように。早めに帰るんだよ』
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