ep.8

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 慌てた三神峯に御堂は肩をすくめると、気の強い垂れ目を柔らかく緩めて頬に触れてきた。指先を受け入れるように、三神峯は目を閉じてその手に身を委ねる。指先が頬を滑って、唇に触れた。  ここはオフィスで、いくら営業一課のオフィスに誰もいないと言ってもいつ誰が入ってくるかわからない。それでも、これ以上のことをどこか期待してしまっている自分がいた。 「景は、よく頑張ってるよ」  ふわりと御堂の香りが鼻をくすぐって額がくっつけられた。髪を柔らかく撫でる大きな手が心地いい。すぐに離れた御堂は、愛おしそうに微笑んでいた。 「おいで」 「わ……っ」  御堂は三神峯の腕を引っ張ってその体を抱きとめる。突然腕を引っ張られたせいで御堂の椅子に乗り上げるような体勢になってしまった三神峯は、バランスを整えようとして結局御堂の膝に座る形になってしまった。 「ちょっと、誰か来たら……」 「来ないよ。もうこんな時間だし。みんな帰ったよ」 「さっきエレベーターのところに人がいたけど……」 「んー、二課の人かな。でもそれならそれでいいよ」  強く抱きしめられて、とん、とん、とリズムよく背中を撫でられる。誰かに見られたらどうしようという戸惑いは撫でられているうちに自然と消えていく。  やっと、触れられた。やっと、お互いを感じることができた。御堂の温もりや鼓動に安心した三神峯は、気が付けば体の力が抜けて彼に体を預けていた。 「……あのね、和樹」 「ん?」  御堂の肩に頭を乗せたまま、考えるよりも先に、口が勝手に動く。
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