ep.8

23/26
前へ
/192ページ
次へ
「……朝、吐いて。ちょっとまずいかなって思って病院に行ったんだ」 「うん」 「急ぎの研究、早くしなきゃいけないのにうまく進まないし、でもみんなに手伝ってもらった研究だからやり直しになったとか、データが足りないとか言い出せなくて」 「……うん」  御堂の相槌はどこか優しくて、言いたくない弱音ばかりがこぼれてしまう。ただでさえ一緒にいることができる時間が限られているのだから本当はもっと違う話がしたい。楽しく、笑い合えるような話がしたい。それなのに口ばかり勝手に動いてしまう。 「……このままじゃ、いつ倒れてもおかしくないんだって。もともと体が丈夫じゃないから先生が大げさに言ったんだろうけど。体、大事にしなきゃいけないのに報告書は終わらないし、手が付けられてない研究は山ほどあるし、でも休むことなんてできないし……」 「――……そう……」  御堂は何か言いたげに口を開いたが、言葉を噛みしめるように小さく息を吐くと再び強く抱きしめなおした。まるで、三神峯の存在を確かめるかのように。 「……どうして、どうして和樹の前では弱音しか吐けないんだろう。本当はもっといろんな話をしたいのに」  三神峯は御堂の肩に顔を押し付けてごめんね、と続けた。御堂だって仕事で疲れているはずなのに、こんな暗い話、聞きたくないだろう。すると御堂は三神峯の背に回していた手を三神峯の後頭部に回し、柔らかい手つきで頭を撫でて言った。 「それはね、景」 「……?」
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1512人が本棚に入れています
本棚に追加