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「901、だから」
「9階ね。了解。準備して待っててね」
「……ありがとう、嬉しい。楽しみだなあ」
御堂は三神峯をもう一度強く抱きしめて、彼を膝から下ろした。本当はこのまま家に連れて帰りたいが、彼だって仕事が残っているだろう。待とうと思えばいくらでも待てるが、それで三神峯を急かしてしまうのも忍びない。
それに、先ほど営業部のフロアに来たときの追い詰められた表情を思えば、だいぶすっきりした表情になっている。
「今日会えてよかった。営業部まで来てくれてありがとね」
「和樹の内線を取らなかったら諦めてた。和樹のおかげ。ごめんね、お邪魔して。もう戻るよ」
「邪魔なんかされてないよ。もう戻る? じゃあエレベーターまで送るよ」
オフィスを出てエレベーターまで送り出す途中、フロアにある打合せスペースを見て三神峯が言った。
「……御堂さんはここで打合せすることもあるの?」
「ん? うん、あるよ。このビルに来たいっていうお客さんもいるからね」
「そっか。まあでも、俺も御堂さんみたいな人がいたら来たくなるかも」
そんなかわいいことを言わないでほしい。ただでさえ久しぶりに会って、彼に触れて、本当はキスだってしたいのを我慢しているのに。エレベーターボタンを押そうとしたとき、帰したくない、という感情が強く込みあがった。エレベーターがこのフロアに到着してしまえばもう三神峯とは別れてしまう。
「……和樹」
ふと三神峯が、小さく名前を呼んで御堂のスーツの裾を引っ張った。御堂は三神峯の声を聞き漏らさないように、少し屈めて顔を近づける。
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