ep.8

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「どした?」  三神峯は目線を落として、呟くように言った。 「……キス、したい。このままお別れするのは少し寂しい……」  三神峯に会うたび、触れるたび、彼にますます惹かれていく。御堂自身、理性が強い方だと自負していた。昔の話を掘り返すのは野暮な話だが、彼女がいた頃だってこんなに触れたいとは思わなかった。それが三神峯を前にすると、どうしても我慢が効かない。  それは三神峯も同じだった。御堂を前にすると、触ってほしい、触れたい、そんな感情ばかりが走ってしまう。 「……ン」 「ん……」  御堂は周りを見渡したあと、防犯カメラに映らないよう三神峯の斜め前に立って三神峯の唇に自分の唇を重ねた。触れるだけのキスは、お互い少しだけ物足りなかった。 「和樹、もう少しだけ……」 「ふ、これ以上は我慢できなくなるから、これで最後ね」  仮に誰かが通ったとしても、目に入ったゴミを取っていたなどとごまかしておけばいい。エレベーターが到着を知らせる音が鳴るまで何度も唇を重ねた。 「じゃあね、……三神峯さん。このあとも大変だろうけど、無理だけは絶対にしないで」 「ありがとう。ごめんね、御堂さん」  これほどまでにエレベーターの到着を望まないときはなかっただろう。エレベーターが閉まる瞬間、寂しそうに笑った三神峯の表情が頭に焼き付いた。 (景、大丈夫かな……。デートのプラン、どうしようかな)  エレベーターが去ったあと、オフィスに戻った御堂はコーヒーを淹れながら思いを巡らせる。あまり本調子ではなさそうだったから、早めに解散するのと、なるべく軽食で済ませようか。三神峯の嬉しそうな表情を思い浮かべて、仕事に戻った。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 次回、いよいよデートです!
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