ep.9

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 三神峯の言葉に、御堂は嬉しさや愛しさが混じった感情でいっぱいになった。駆け寄ってきた三神峯を引き寄せ、柔らかい髪を優しく撫でる。抱きしめたい感情に襲われたが、いくら大通りから一本入ったところとは言え、人通りも車通りもそこそこある場所だ。背中に回そうとした手を慌てて引っ込めて、抱きしめたい感情を必死に抑えた。  そんな感情を知らない三神峯は御堂を見上げて首を傾げている。 「……景が、かわいいなって」  失いかけた語彙力でようやく絞り出した言葉に、なにそれ、と三神峯は笑う。今日は仕事も何も関係のない、念願の初デートなのだ。少しくらい理性が保たなくても許してほしい。  三神峯も出かける準備は整っていたようで、肩には小さな鞄がかけられていた。 「準備大丈夫? もう出発してもいい?」 「うん、大丈夫……あ、待って、和樹」  再び歩き出そうとした御堂を呼び止めて鞄の中を漁ったと思えば、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべてマンションの中に入るように御堂を促す。 「ごめん、忘れ物しちゃった。待たせるのも悪いし、俺の家に上がっていってよ」 「え、いいの? 忘れ物取ってくるくらいならここで待ってるよ」 「いいの。一緒に来て」  そう言いながら三神峯はオートロックを解除し、エレベーターに乗り込んだ。 (……てか、私服かわいいな)  初めて見た三神峯の私服はモカ色のゆったりとしたニットに、裾が広がったアイボリーのワイドパンツ。ふわふわと広がっているせいでスカートにも見えなくもないが、これはこれで三神峯の綺麗な顔立ちによく似合っている。ニットからは中のインナーから伸びる紐が首の後ろで結ばれていた。 (景の服装、意外と女の子っぽいんだな……かわいすぎる) 「……あの、和樹。もしかしてどこか変なとこ、ある?」
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