ep.9

6/28
前へ
/192ページ
次へ
「わあ、いいねそれ。楽しみだなあ」  三神峯は表情を緩めてソファーから離れた。嬉しそうに和らげた表情に、御堂も嬉しくなる。  御堂と三神峯が所属する会社ではつい最近、栄養ドリンクのパッケージを期間限定でカワウソを模したキャラクターを載せた商品を発売した。御堂も営業先に紹介していたせいか街中でキャラクターがよく目に留まるようになり、しまいには見かけるたびについ手に取ってしまうようになってしまった。  たまたま渋谷でポップアップストアが開催されることを営業先から聞いて、せっかくだから三神峯と一緒に行こうと思ったのだ。  ポップアップストアが楽しみなのか、駅に向かう途中もどんな商品があるのかな、と楽しそうに御堂を見上げる。そんな彼がたまらなく愛しさで胸が熱くなった。 「ポップアップストア、渋谷のポルコでやってるからスマホも渋谷のショップでいい? 先にショップに行こうと思って」 「いいよ。むしろ付き合わせちゃってごめんね」 「気にしないでよ。俺が一緒に行きたかったの」 「それならいいんだけど……、和樹、改札もスマホで通ってるの?」  改札にスマートフォンを(かざ)して通り抜ければ、パスケースを持った三神峯が不思議そうに尋ねてきた。スマートフォンで改札が通れるとは思っていなかった、というような表情だ。改札を振り向いて「よく見たら他にもスマホで使ってる人がいるんだね」と呟く三神峯を見る限り、彼はそこまで詳しくないのだろう。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1511人が本棚に入れています
本棚に追加