ep.9

8/28
前へ
/192ページ
次へ
 三神峯自身、特にスマートフォンへのこだわりはないらしく、使えればなんでもいいらしい。夏に発売されたばかりのEPhoneの最新機種を検索して三神峯に見せれば、使い勝手もあんまり変わらなそうだしそれでいいや、とスマートフォンを鞄にしまってから窓の外に目線を移した。 (……景は身長もそうだけど、体が華奢だから余計に小さく見えちゃうんだろうな)  御堂もドアに凭れ、三神峯を見下ろしながらそんなことを考える。時折電車の揺れでバランスを崩しそうになる三神峯を、御堂はさりげなく彼の腰に手を回して支えた。 「景、銀座で乗り換えーー……」 「ねえ、あのカップルめっちゃ美男美女じゃない?」 「えー、どこ? ……うわ、マジだ! ツミッターに乗せたらバズりそう!」  ふと新橋駅から乗ってきた女子高校生2人が車内に乗り込んだ途端、そんなことを言いながら盛り上がり始めた。さりげなく周りを見渡してもカップルらしき人たちは見当たらない。彼女たちの視線はたしかに自分たちに向いている。 (さすがに声大きいだろ……)  おそらく自分達のことだろうと気づいた御堂は三神峯を隠すように引き寄せた。三神峯のことを褒められるのは嬉しいが、見世物になってしまうのはあまり気分が良い話ではない。 「? 和樹? 今日あったかくてよかったね」 「ん? うん、そうだね」  そうとは知らない三神峯は首を傾げながら呑気にそんなことを言っている。突然投げかけられた気候の話題に一瞬戸惑いつつも相槌を打てば、和樹は晴れ男かな、と満足したように再び窓の外に目を向けてしまった。 (……まあ、いいか。景は気づいてないし)    渋谷駅に着く数駅の間、御堂は三神峯の指通りの良い髪を楽しむことにした。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1511人が本棚に入れています
本棚に追加