ep.9

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 突然後ろから声がしたと思えば、マグカップのサンプルを持つ御堂の手元を覗き込むように三神峯が話しかけてきた。その手には先ほど手に取っていたタオルが入ったかごが握られている。 「んー、この前割っちゃったからさ。あれ、景はタオル買うの?」 「うん。この生地気に入ったから髪を乾かすのに使おうと思って」  いつの間にかごを取りに行っていたのだろうか。和樹のぶんも持ってきたよ、と言葉を続けて空のかごを差し出された。 「ありがと。でもマグカップにこだわりはないから別にここで買わなくてもいいんだけど……。俺が持ってたらファンシーすぎない?」 「そう? マグカップ、サイズも小さめでかわいいし、いいんじゃないかなあ。和樹が持ってたら、みんな欲しくなっちゃうと思うけど」  三神峯は御堂の持つマグカップのサンプルを見ながらそう笑った。  そんなかわいいことを言われてしまったら、もう買う選択肢しかなくなってしまう。御堂は三神峯が持っているかごを手に取ってパステルパープルのマグカップの箱を入れると、空のかごに重ねた。 「せっかくだし買ってくる。景のタオルもついでに一緒に買うよ」 「え、それは申し訳ないよ……」 「俺がそうしたいの。他には何か買う?」 「他は大丈夫だけど……本当にいいの?」 「いいよ。今日はデートなんだから、俺に買わせて」  渋々と納得した三神峯にストアの外で待っているように伝えてレジに向かう。レジで店員が「先ほどの方は彼女さんですか?」と聞いてくるものだから、密かに自慢を込めて「お恥ずかしながら今日が初デートなんです」と答えれば、若い女性の店員は顔を明るくさせて美男美女ですね、と興奮気味に話した。
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