ep.9

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「……あれ、和樹のマグカップもこっちに入ってるよ」  キーホルダーを鞄につけたあと、ショッパーを受け取ろうとした三神峯がタオルだけの重さではないことに気づいたのか御堂が持っているショッパーと見比べて首を傾げる。間違って入ってしまったのかとショッパーから取り出そうとした三神峯の手をそっと制した。 「いや? それは景の。俺とおそろいにしたくて、色違いの買ったんだ」 「お揃い……」 (……って、さすがに幼稚だったかな)  さすがにやりすぎだっただろうか。お揃いにしてもいい歳をしているのだからもっと別なものでもよかったのではないだろうか。  不意にそんな考えが渦巻いて羞恥が湧いてきたが、三神峯は驚いたような表情を一瞬だけ浮かべ、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。 「色違い、わざわざ買ってくれたの? ふふ、ありがとう」 「……喜んでもらえて俺も嬉しいよ」  一緒に過ごしてわかったが、三神峯は嬉しそうに笑うとき、目元を緩めてふわりと笑う。ぱっと花が咲いたように笑うわけではないが、まるで桜の花が満開になるように、ふわふわで、淡いピンク色に色づくように。  御堂はその顔を見るたび、愛しさで胸がいっぱいになるのだ。彼の目元を優しく撫でて、御堂も表情を緩めた。
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