ep.9

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「次さ、お昼兼ねて表参道のカフェに行こうと思ってるんだけどどう? 腕の立つバリスタとシェフがやってて結構おいしいんだって」  そう誘ったカフェは、最近御堂がずっと気になっていた店だった。たしかに口コミの評価は高いはずなのに、テレビや雑誌の取材はすべて断っていたり、ホームページを含め現代においては主要の宣伝ツールであるSNSもまったく運用していなかったりと情報がとにかく少ない。それでも高い人気を誇るカフェに、いつか三神峯を連れて行きたいと思っていたのだ。  これまで気になった店は気が向くままに一人で訪ねることが多かったが、いつの間にか街中を歩いていても三神峯ありきの考えに変わっていた。 「そうなの? それは楽しみだなあ。……和樹、カフェに行く前にちょっとお手洗いに行ってきてもいい?」 「ん? いいよ。ここで待ってるから」  トイレに行きたいという三神峯を何気なく見送ったものの、申し訳なさそうな表情を浮かべてごめんね、と離れた彼がトイレの表示を探しながら腹部をさすっていたような気がした。 (……お腹、どうかしたのかな……)  だが、戻ってきたときに何ともなさそうな顔をしていたせいか、それ以上深く追及することはできなかった。
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