ep.9

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(どうしよう、胃が痛い……)  商業施設のトイレで洗面台に手をつきながら三神峯は深くため息をついた。吐き気がないだけまだマシだが、ポップアップストアにいる頃から感じ始めた胃痛は悪化するばかりだった。カフェに向かう前に処方された10粒近い薬を飲んでも、さらに痛みがひどい時に飲むようにと処方された痛み止めを飲んでも症状は変わらない。何度もトイレに向かう三神峯をおそらく御堂も不審に思っているだろう。 (和樹に言わなきゃ、もっと一緒にいたかったけど、このままじゃ迷惑かけちゃうだけだ……)  本当はもっと一緒にいたい。買い物だって一緒にしたい。そんな思いとは裏腹に胃にものを流し込むたびに走る激痛に耐えられず、結局カフェでも少ししか飲めなかった。御堂はあまり追及してくることはなかったが、痛みに振り回されて迷惑をかけてしまっている自分がとにかく嫌だった。  このままでは御堂に迷惑をかけるばかりだと、三神峯は何度目かのため息を吐いて顔を上げた。 (――あ、まずいかも)  顔を上げた途端、さっと血の気が引いていく感覚と同時に目の前が真っ暗になった。周りの音が籠って、かき消すように耳鳴りが蝕んでくる。それに、手足がしびれて体を支えることができない。思わず蹲ってしまったせいで視界が真っ暗な中でもちらちらとこちらを窺うような周りの視線を感じたが、それを気にしている余裕はなかった。
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