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(貧血、油断してた……)
胃痛に触発されて血の気が引いているだけかもしれないが、最近は胃痛に気を取られていたせいでこちらの数値も悪化していることをすっかり失念していた。貧血の対応には慣れているはずなのに頭が回らない。こんなとき、今までどう切り抜けていただろうか。
わずかに見える光を頼りに壁を伝い、トイレの外に向かう。吹き出た冷や汗がやけにべたついて気持ち悪かった。
「和樹……」
御堂はどこで待っていると言っていただろうか。もう先にショップに行ってしまっただろうか。トイレを抜けたところで落ち着くまで座ってしまおうかと考えたが、その思考は御堂の声によって抑えられた。
「景、どうした? 顔真っ青だ。おいで」
「……かず、き」
肩を掴んで支えてくれた手と声を頼りに見上げれば、すかさず御堂の手が三神峯を抱き寄せる。彼の体温と香りが鼻に広がってひどく安心した。
「大丈夫、大丈夫だよ。俺がいるから。ここでいいから少し座ろうか」
うるさく鳴り響く耳鳴りを切り裂くように繰り返される御堂の優しい声。言われるがままその場に座り込んでも、御堂は胸に強く抱きとめたまま、一番楽な体勢になるように支えてくれた。
聞こえてくる彼の鼓動と背中を擦ってくれる手は、これまで一人で耐えていた不安をすべて払拭してくれるほど頼もしかった。
(苦しいの、ひとりで耐えなくていいんだ……)
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