ep.9

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「和樹、俺は大丈夫だよ。ごめんね、探してくれてありがとう」  これ以上御堂に手間をかけさせたくないと御堂の手を引っ張れば、彼ははっと我に返ったように三神峯に目を向けた。御堂はそこで初めて、握った三神峯の手がわずかに赤くなっていることに気がついた。 「あ……っ、いや、景が謝ることじゃないよ。ごめん」  慌てて手を離し、御堂は自分自身を落ち着かせるように深く息を吐きながら前髪をかきあげるとごめんね、と柔らかく笑ってみせた。険しかった表情も消え、いつもの御堂に戻ったような気がして三神峯も小さく安堵のため息を吐く。 「……ごめんね、俺ちょっと焦ってた。痛かったよね。タクシー呼ぶから帰ろうか」 「……」  そう言って御堂はスマートフォンを少し操作すると、すぐ来るみたい、と三神峯に言った。アプリで配車できるから便利になったよね、と笑いながら続ける御堂に笑い返して、タクシーを商業施設の外で待つことにした。 「大丈夫? 屈んでる? 寒くない?」 「ん……大丈夫だよ。心配かけてごめんね」  タクシーが来る少しの間も、御堂は三神峯の体を気遣ってくれた。先ほどのこともあるのか、三神峯がこれ以上不安にならないようにしてくれているのだろう、明るい話題を話したり頬を撫でたりして柔らかく笑いかけてくれるが、その瞳はやはり心配の色を灯している。 「大丈夫ならいいけど、まだ顔色が……景、ちょっとごめんね」 「? ん……っ」  ふと何かに気づいたように御堂の指が三神峯の唇を少しだけ強く拭った。突然の感触に三神峯は肩を震わせる。それと同時にしまった、と三神峯は唇を隠すように固く結んだが、御堂の指先にはすでに赤い色が付着していた。
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