ep.9

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「運転手さん、茅場町駅の近くの――……」  タクシーに乗り込むと、御堂はシートベルトを伸ばしながら運転手に行き先を伝えた。走り出したタクシーに身を委ねて三神峯は窓の外を眺める。ようやく痛み止めが効いてきたのか、三神峯を蝕んでいた胃痛はだいぶ和らいでいた。 (和樹に悪いことしちゃったな……)  色々と気遣ってくれた御堂に礼を言わなければならないと思いつつも、迷惑をかけてしまった罪悪感が先に立って御堂の顔を見ることができない。彼がどんな表情をしているのか、知るのが怖かったからだ。 「……今日、ずっとお腹痛かった?」  タクシーが走り出してどれくらいが過ぎた頃だっただろうか。それまでひょうきんな運転手が一人で盛り上がっていた話題に御堂が適当に相槌を打っていたが、気が付けば会話は途切れ、御堂の手が三神峯の腹部にそっと乗せられた。 「……どうして……」 「そんな気がしただけ。違うならいいんだけど」  言いながら優しく腹部を撫でる大きな手。撫でられた場所がじんわりと温かくなって、不思議と痛みも消えていく気がした。  御堂はいつだって全身で、御堂自身のすべてを使ってでも三神峯を守ろうと、愛そうとしてくれる。そんな御堂に隠し事なんてできるはずがなかった。優しく触れられるたび、問いかけられるたび、ずっと三神峯の中で我慢をしていたものが溶けて吐き出さざるを得なくなってしまう。  三神峯は意を決して、口を開いた。
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