ep.9

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「この前……って言っても数日前だけど、吐いて病院に行ったって話、覚えてる?」 「……うん、覚えてるよ」 「その時、本当は吐いたの、血だったんだ」  突然の三神峯の言葉に、御堂は撫でていた手を止めた。止めた、というより、心臓の音がうるさく鳴り出して指先ひとつ動かせなかった。何か言葉をかけてやらなければならないのに。指先も、口も動かなかった。  御堂の手を包むように、震える両手を重ねて三神峯は言葉を続ける。 「本当かどうかわからないけど、原因は出血性の胃炎。点滴と薬でその場を凌いだけど、痛みは治まらないし、集中はできないし、どうしてもうまくいかなくて。我慢できなくて、あの日、……和樹に会いに行った」 「…………」  御堂の顔は見られなかった。これ以上話すのも怖かった。これ以上話したら、自分の体のことを認めてしまうようなものだったからだ。 「……先生が」 「……?」  三神峯は何度も言葉にするのをためらいながら、御堂の手を強く握った。 「……先生が、いつ死んでもおかしくないって言った。それが今すぐだったとしても数年後だったとしても。それ聞いた時、自分の体を顧みなかった罰が当たったんだって思った。……でも」
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