ep.9

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 傾いた陽射しが三神峯を柔らかく照らす。彼の色素の薄い髪もまつ毛も、金色の陽射しに溶けて消えてしまいそうだ。ぽたり、と手に何か落ちた感覚がして手に目を向ければ、ぽたぽたといくつもの水滴が御堂の手を濡らす。それが彼の涙だと知ったのは、三神峯の華奢な肩が震えていたことに気付いたからだ。 「景……」 「俺、まだ和樹と一緒にいたい。死ぬのは、和樹と別れるのは嫌だよ……っ」  ふわふわのまつ毛に涙が溜まって、瞳を閉じるたびに白い頬に伝っていく。どれだけの不安を抱えていたのだろう。彼はどんな気持ちであの日、営業部のフロアに来たのだろう。連絡が来ないことを仕事が忙しいからだと勝手に自己完結をして、三神峯の仕事が落ち着くまでそっとしておこうと思っていた自分を殴りたいと思った。  肩を震わせて、唇を噛み締めて必死に嗚咽に耐える三神峯に、御堂が言葉を紡げたのは少し経ってからだった。 「……怖かった、よな。ごめん、ずっと怖かっただろうに、何も出来なくて、いや、何も知ろうとしなくて、呑気にデートになんか誘って自己満足してた」  薄っぺらい言葉しか羅列できない自分に、御堂は自分自身に苛立ちすら覚えた。三神峯が抱えていた痛みや不安はこんな言葉で片付けられるものではない。すると三神峯はふるふると首を横に振った。 「……今日、誘ってくれて嬉しかった」 「――……」
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