ep.10 *

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「……和樹、さっき汗拭いてくれたハンカチ、洗って返すよ。あと服、皺にさせちゃったし汗もついちゃったからクリーニング代も渡すね」  部屋に置かれた二人掛けのソファに促されるまま座れば、三神峯は隣に座って申し訳なさそうにそう言った。眉を下げる三神峯に、御堂は小さく笑って赤くなった彼の目元をなぞる。まつ毛に残った涙が、御堂の指に吸い寄せられてじわりと指先を濡らした。 「景が気にすることじゃないよ。こんな皺、大したことないし。洗濯すればもとに戻るよ」 「でも……」 「大丈夫だよ。むしろ景が辛いときに抱きしめられたって、恋人の勲章じゃない?」  それまで納得をしていないような表情を浮かべていた三神峯だったが、冗談交じりにそう言えばなにそれ、とふわりと笑った。おかしそうに笑う三神峯の顔には安堵が混じった表情も混ざっていて、御堂もつられて笑みがこぼれる。愛しさがあふれて、そっとその体を抱き寄せた。 「……本当に、心配した」 「和樹……」  真っ青な顔を見たとき、本当は内心焦っていた。少し強く抱きしめれば折れてしまいそうなほど華奢な体つきに肩で呼吸をするほど速くなった鼓動。彼の言葉を聞かなくとも、苦しんでいることは目に見えてわかった。ぎゅう、と顔を押し付けて必死に縋る三神峯の背中を撫でながら、早く治まってほしい、これ以上悪化してほしくないとばかり願っていた。  だから服が皺になろうが汗がつこうが、そんなこと微塵も気にならなかった、というのが正直なところだ。 「何もできなくてごめんね。苦しかったでしょ、落ち着かせることしか頭になかった」
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