ep.10 *

3/24
前へ
/192ページ
次へ
 あの時、もっと最善策があったのではないか。座らせるのではなく、商業施設のスタッフを呼んでもらってどこかで横にさせた方がよかったのではないか。幸いにもすぐに落ち着いたからいいものの、冷静になればなるほど、御堂の中には後悔ばかりが渦巻いてしまう。  そんな御堂の後悔を裂いたのは、三神峯の静かな声だった。 「……さっき、和樹に抱きしめられたとき、安心した」 「――……」 「俺、貧血になると気持ち悪くなったりしばらく意識飛んだりするから正直怖かったんだけど、和樹に抱きしめてもらったら少しだけ落ち着いた。不思議だよね、でも、本当のことだよ」  そう言いながら、三神峯は御堂の背中に腕を回して肩口に顔を擦り寄せた。和樹の匂いに包まれると安心するんだよね、と言葉を続けて。 「……景」 「和樹?」 (食べちゃいたいっていう表現はあまりにも古すぎるかな)  御堂は三神峯を解放して、白い頬に指を滑らせる。引っかかるものが何もないほどのきめ細やかな肌に、色素の薄いガラス玉のような瞳を縁取る長いまつ毛。半分拭ってしまったせいで色は失っているが、形のいい小さな唇。肌を滑らせていた指で唇をなぞって、そのまま唇を重ねた。 「……ん、んん……」  啄むように、唇の感触を確かめるかのように何度も唇を重ねる。彼の後頭部に手を回して、角度を変えて、何度も。 「ん、ふ、あ……っ」  柔らかい弾力のある唇を舌で割り、彼の赤い舌を絡めとる。くちゅ、くちゅりと唾液が絡み合う音が静かな部屋にやけに響いて、御堂の理性すらも崩れさせてしまう。御堂の首に手を回していた三神峯が、ぎゅう、と抱き着いてきた。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1510人が本棚に入れています
本棚に追加