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ep.3
「うちの病院ねえ、共立ファインの医薬品に興味があったんだよね。今日も共立ファインのために来たんだよ」
「ありがとうございます。ぜひ最適な見積もりをお出しさせていただきますので、ご検討を……」
「いやあ、今日は丁寧に説明してもらったし、もともと契約したいと考えていたからねえ、今日契約していいよね、高山院長」
「そうですね、いいと思います」
手元に並べた相手の名刺を一瞥して、御堂は心の中でガッツポーズをとった。大阪府内でも名のある医療法人の専務理事と系列病院の院長。頭の中で見積もりを組み立ててもかなりの利益になるだろう。彼らからは斜め上からの質問が多く、知識もある程度持っていて場数を踏んでいる御堂でさえ答えに困る場面が多々あった。しかし、都度三神峯がフォローしてくれたおかげで事なきを得たのである。
「御堂さん、簡単なもので申し訳ないのですが、先ほどのお話から一応概算作っておきました。送ってもいいですか?」
彼らがブースを去ってすぐに、三神峯が手元のタブレットのメモ機能を見ながらそう言った。
「三神峯さん。……早いですね」
「いえ、お話聞きながら薬価と合わせて計算しただけですよ」
三神峯の機転と知識の量は御堂が見込んでいた以上だった。
資料の提示のタイミングや相手の話の相槌など、同じ営業部の人間でもなかなかできないことを簡単にこなしていたのだ。営業部の皆さんが作るような見積書には程遠いですけど、と彼は付け加えているが、概算を求めることすらできず、「戻って確認します」と営業支援部に任せきりの社員だっている。
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