ep.10 *

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 穏やかな時間に幸せを感じる反面、三神峯を簡単に失ってしまいそうで怖かった。タクシーの中で教えてくれた体調のことも、前から感じていた三神峯に対する理不尽な境遇も。同じ会社で、同じ敷地内にいるのにも関わらずどうしてこんなに遠く感じるのだろう。やっとこうして触れ合えているというのに、週が明けたらまた無力になってしまう。 (死ぬのは、別れるのは嫌、なんて、言わせたくなかったな) 「……景」 「?」  三神峯の負担にはなりたくない。今も本当は早く帰って、ゆっくり休ませるのが一番いいだろう。それでも、この腕を離したくなかった。 「今日、泊まっていってもいい? ごめん、負担になるのはわかってるけど、これ以上景をひとりにしたくなくて」  言葉を選ぶのがこんなに難しいものだっただろうか。まとまらないまま並べた言葉に三神峯は一瞬だけ驚いた表情を浮かべると、少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。 「和樹がいてくれるのは嬉しいけど、和樹こそ大丈夫? ベッド狭いし、ちゃんと眠れるかな」 「俺は床でもソファでもいいよ。ベッドは絶対に景が使って。大丈夫、俺はどこでも寝られるから」 「そう? じゃあ毛布があるから毛布を敷いて……和樹?」  御堂は強く三神峯を抱きしめた。肩に顔を乗せた三神峯が不思議そうに背中に手を回してくれる。「毛布は嫌だった?」「やっぱりソファにする?」そんな見当違いで可愛らしい彼の言葉はまったく頭に入ってこない。 「あの、和樹……?」
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