ep.10 *

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「ミネラルウォーター、よかったら飲んで。お酒、買ってくればよかったかな」  言いながら三神峯は水の入ったグラスを御堂に差し出した。三神峯が持つトレーには御堂がポップアップストアで買ったカワウソのマグカップが乗せてある。 「いや、お酒はいらないよ。……って、それ、もう使ってるの?」 「あ、これ? うん、嬉しかったし、せっかくだから。誰かから物をもらうことが久しぶりってところもあるんだけど、和樹が選んでくれたのが嬉しくて」  三神峯はマグカップを両手で包んで、照れたように笑う。 (うわ、めちゃくちゃ嬉しいんだけど)  愛しさがこみあげて思わず彼を抱きしめた。正直30も過ぎたいい歳の自分がキャラクターもののマグカップなんてあまりにも考えが幼稚だったのではないかと思っていたが、そこまで喜ばれるとこちらとしても照れてしまう。彼のソフトボア生地の部屋着は触り心地が良くて、つい何度も抱きしめ直した。 (良い香り……) シャンプーの香りなのかそれとも柔軟剤の香りなのか、ホワイトブーケの優しい香りがどうしてか切なく感じる。首筋に顔を埋めると、三神峯がくすくすと小さく笑った。 「ふふ、和樹も同じ匂いがする」 「ん……」 「和樹? 眠い?」 「――……あのさ、景、一緒に住まない?」  思わず出た言葉に、それまでどこか楽しそうに話していた三神峯が肩口で驚いたように息を呑んだのがわかった。もちろん、御堂自身も勝手に動いた口に驚いていた。  もちろん、ずっといつかは一緒に住みたいとは考えていた。だが、それはほぼ幻想に近く、仕事で忙しい三神峯を縛り付けるわけにいかないし、三神峯にとって、歩いて帰ることができる距離にあるこの部屋がきっとベストなのだろうと思っていた。
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