ep.10 *

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「……それは、できないよ」  少し時間を置いてから、御堂の肩に顔を預けたまま三神峯は静かに口を開いた。否定の言葉を紡いだ彼に、驚きはしなかった。 「そっか……」  たしかに三神峯の仕事の忙しさを考えれば、一緒に住むなどかえって彼の負担になりかねない。驚かなかったのは、想像した通りの答えだったからだ。 (でも、この前だって景のことを考えて、なんてそれらしい理由をつけて血を吐くまで苦しめてたのは俺だろ。また同じこと繰り返すんなら、俺は……)  それでも、「血を吐いた」と言われたあの衝撃を思えば、ここで引き下がるわけにはいかなかった。言葉を選ぶために黙ってしまった御堂を怒らせてしまったと勘違いしたのか、慌てて三神峯は言葉を続ける。 「違うよ、和樹と一緒に住むのが嫌なわけじゃないよ。ただ俺は、いつも帰りは朝方だし、下手すると数日帰らないことだってある。そのたびに和樹に心配と迷惑をかけるのは、あまりにも申し訳なさすぎて……」 「それでもいい」  三神峯の言葉を遮って、御堂は強く抱きしめた。 「帰りが遅くなっても、帰ってこれなくても、それは仕方のないことだと思ってる。心配ではあるけどね。……でも、ここに帰ってきてくれる、ってだけでいいんだ。一番に景を抱きしめたい。景が少しでも具合が悪いときに、一番そばにいてやれる存在でいたい。もちろん家は会社の近くで探すし、景の負担にはならないようにするから」 「――……俺ね」  三神峯は悩んだように言葉を詰まらせたあと、震えた声を抑えるように、御堂の首に強く抱き着いた。
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