ep.10 *

21/24
前へ
/192ページ
次へ
 三神峯が自分のことを話してくれたのだ、御堂自身も秘めていたことを言わなければフェアじゃない。それに、これはずっと言おうか悩んでいたものだ。恋人としても、同じ男性としても。 「結婚間近で、お互いの親同士にも挨拶してた。ウェディングドレスの試着も、式の日程も決まってた。あと招待状を送るだけだったかな」 「それは……」 「そう、喜ばしいことだよね。……本来ならね」  忘れようとしていた嫌な記憶が蘇る。若くして自分の実力を認められて主任に昇格して、たしかに順風満帆のはずだった。三神峯は何も言わなかった。 「言わなかった俺が悪かったのかな。それとも、どこかでもう愛想を尽かされていたのかな。その半年くらい前から休日にどこか行こうかって誘っても彼女は用事があるって断るようになって。服装とか持ち物とか、どんどん派手になっていった。その頃はもう同棲していたんだけど、分担していた家事もやらなければ、帰ってくると家の中は散らかりっぱなし。俺も仕事が忙しくて放っていたし、たしかに、喧嘩は増えていたかも」 「……和樹……」 「冬の日だったと思うんだけど、たまたま地方の支社出張の行程が早まって一日早く帰れることになったんだ。喧嘩続きだった彼女に、ちょっとしたサプライズのつもりで連絡もなしに家に帰ったんだ。馬鹿みたいにケーキなんて買ってさ。ドラマみたいな話だけどその先は地獄だったよ。知らない男と、ベッドの中で仲良くしてた。相手はホストだった気がする」  でも俺は、許したんだ、それを。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1510人が本棚に入れています
本棚に追加