1490人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
いくら三神峯が専門職で薬に詳しいといえども、なかなかこの短時間で概算を組み立てることはできないだろう。
(めちゃくちゃ頭いいんだろうな……。営業部に欲しいくらいだ)
この商談も、三神峯がいなければおそらく先方は即決をしてくれなかった。御堂も自分の知識不足に反省をしつつ、隣に立つ三神峯に視線を落とす。東京に戻ったらまた会えなくなってしまうと思うと、もったいないという気持ちが先に立った。
「今御堂さんのチャットに送ったので、確認してください」
三神峯は操作していたタブレットから顔を上げると、柔らかく笑って御堂を覗き込んだ。ふわりと香った甘い匂いに、一瞬だけ御堂は眩暈を感じる。三神峯と会ってから彼のことが気になって仕方がない。仕事に対してだけではなく、彼の人柄もプライベートまでもが気になりはじめている。三神峯に、彼女はいるのだろうか――。
「あ……。ありがとうございます。あの、三神峯さんは――」
「す、すごいです御堂主任! 一件受注じゃないですか!」
契約書のバインダーを持っていることに気づいた諏訪が、話を遮って興奮したように駆けよってきた。三神峯との話を遮られたことに少しだけ苛立ったが、今、諏訪に話を遮られなければ何を言おうとしていた?
一方、諏訪のまるで自分が受注したような喜びように、これからはお前がこうしていかなきゃいけないんだぞ、と呆れながらも彼の純情さに思わず笑みがこぼれてしまう。
「諏訪、次同席するからお前が主導で説明して」
「えっ!? はっ、はい!」
「大丈夫だって。ちゃんと練習してきただろ」
(仲良いなあ)
そんな二人を見て、三神峯は小さく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!