ep.11

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ep.11

Phase2  共立ファイン株式会社は380年という国内で最も歴史をもつ製薬会社だ。現在では東京の中心地でもある大手町に本社を構え、10年ほど前には郊外にあった中央研究所の拠点も同じ敷地内に移した。  そのため敷地内では中央研究本部としての研究棟と経営本部が入る本館に分かれている。研究棟と本館は連絡通路で繋がってはいるが、薬品の持ち出しや動物の脱走などといった事故に備え、研究棟の入り口は改札のようなゲートが二重に設置されていた。もちろんその履歴は全てシステムで管理されているうえ、研究室や保管庫、ライブラリなどでなければ厳重に管理されているわけではないので社員証を(かざ)せば基本的に誰でも通ることができるようになっている。 (今日は一段と寒い気がする……)  あっという間に時は流れ、11月も終わりを迎えようとしている。寒さが厳しくなり始めているが、最先端の設備を誇るこの研究棟には非臨床実験を行うための動物の飼育設備や繊細な研究機械設備が多く、常に換気や温度管理、湿度管理までもが必要になる。そのためいくら研究棟に全館空調が完備されていてもロビーや廊下はどの季節でもどことなく肌寒かった。 「三神峯、悪い、遅くなった」  午前9時15分。少し息を切らせた声に、ロビーソファに座ってデータの確認をしていた三神峯はタブレットから顔を上げた。声の主である金剛沢はよく見ると寝癖がついたままだった。朝に連絡をもらったときから何となく寝坊したのではないかと勘づいていたが、どうやら的中のようだ。 「いえ、まだ打ち合わせの時間には早いですし、まだ臨床部の担当者も来てないので大丈夫ですよ。こちらこそ朝早い時間にすみません」
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