ep.11

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 三神峯が研究室でもオフィスでもなく、研究棟のロビーにいたのは開発総務部に新しい研究の企画概要を説明するため、金剛沢と待ち合わせをしていたからだった。  新しい創薬のテーマが発表されると研究職は基礎研究から開発、製造、特許の出願までの企画を立案し、期間や成功の見通し、他の事例を踏まえた研究開発にかかる費用の算定、最終的にどれくらいの収益になるかをまず開発総務部と開発管理部に伝えなければならない。  開発本部で承認を得たあと、ようやく本部の経営会議に諮られる。そこで正式に承認されてから、研究職は研究を始められるのだ。役目を押し付けられてきた三神峯は慣れたものだが、もちろん、企画書を目の前で破かれたことだって何度もある。  研究開発には基本的に数十年という長い期間を要し、その費用は数百万円から数億円、それ以上に嵩むこともある。もちろん、それだけの時間とお金をかけても創薬のテーマから実際に薬剤として開発が進むのはほんの数パーセントにも満たない。いくら現場レベルで期待度の高いテーマがあったとしても、会社という組織に属している限り、結局その研究に数億円規模の予算をかけられるかどうかを判断するのは悔しいことに研究に携わる専門職ではなく一般職が多いのだ。彼らが納得するように説明をするのも、研究職の仕事である。 「いや、完璧に俺の失態。最近11時に出勤することが多いから勘違いしそうになったんだ」 「そうだったんですね。そうとは知らずに……」 「一般職は平気で朝イチにアポ入れてくるからな。余計な仕事を夕方に持ち込みたくないんだろ。……あ、そうか、三神峯もまだ定時制か。仕事抱えてるのに大変だな」
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