ep.11

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「一昨日のミーティングでお渡しした資料の通り、第三段階からがおそらく開発課に関わるところかと思うので、そこからの説明をお願いしてもよろしいですか? 予算については僕から説明します」 「了解、三、四が俺でそのあとの段階は臨床部だな。まあ三神峯の見立て通り、今回予算が通るとは思えねえけど」 「難病の特効薬なので、サンプルの細胞を採取するのも生成するのも難しそうですからね。化合物も見つかるかどうか……」  かなり難しいだろうな、金剛沢はそう言葉をこぼし、首の後ろを掻きながらぱらぱらと手元の資料を捲った。  大きいサイズのダブルクリップで留められた厚い資料に、タブレットに表示された説明用としてのスライド資料。どちらも目を通す限り文句の出ようがないほど分かりやすく詳細な資料の作り込みに驚いたが、それ以上に金剛沢はこの膨大な情報量が頭に入っている三神峯に対して感心していた。これまで何度も打ち合わせを重ねてきたが、その度に三神峯は一字一句頭に入っているのではないかと思ったほどだ。 「金剛沢さんとこうして直接研究に携わるのは初めてですよね。資料は何度も確認いただいたので大丈夫だと思いますが、実際の説明に不足があったらすみません」 「そうだな。いや、打ち合せで聞いてても問題はないと思うけどな。それにしても、この資料……」 「ごめんごめん! 遅くなっちゃったよ!」  金剛沢が言いかけた言葉は、臨床部に所属する旗立(はたたて)によって遮られた。走ってきたのか呼吸は荒く、噴き出した汗を懸命にハンカチで拭っている。運動不足と不摂生を体現しているような体型をしている彼は、白衣のボタンがビールで肥えた腹に飛ばされてしまいそうだった。
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