ep.11

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「旗立課長、お疲れ様です」 「資料確認したよ、中田から自分が作った資料だって言われたからね! あいつ研究課に異動してからだいぶ分かりやすい資料作るようになったから、研究課が合ってるのかもしれないな!」 「……ありがとうございます。そうですね、僕も中田主任にはよくご指導いただいていますから……」 (中田が? なわけねえだろ……)  ガハハ、と三神峯の肩を掴みながら笑う声に三神峯は思わず苦笑いを浮かべた。苦い表情を浮かべる金剛沢には目もくれず、荒い呼吸のまま汗ばんだ手のひらが三神峯の肩をゆっくりと撫でる。 「三神峯くんはまた痩せたんじゃない? 肩幅が小さくなった気がするんだけど」 「大丈夫ですよ。でもそれ、女性社員にはやらないようにしてくださいね」 「顔も手もこんなに小さくて、本当に男なのか確認したいくらいだよ」  三神峯自身、旗立と仕事をするのはこれが初めてではないが、彼の距離の近さには困るときがある。毎度苦笑いでそれとなく交わしているものの、最近では顔を合わせるとどこかしらボディタッチをするようになってきた。単に距離が近い人なのか下心があるのかは読み取れないが、研究に関する腕は優秀なので不祥事を起こさないようにしてほしいと願うばかりだ。 「まぎれもなく男ですよ、僕は。時間なので行きましょうか」 「男なのが本当に残念だ!」  苦笑いで受け流して、三神峯はタブレットを閉じて立ち上がった。立ち上がった際に一瞬だけ目の前がチカチカと点滅したが、首を振って何とか持ちこたえた。前を歩く金剛沢と旗立に気づかれなかったことに安堵しながら。
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