ep.11

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 開発総務部のオフィスに入り、カウンターに出てきた女性社員に総務課長とアポイントをとっていた旨を伝えると女性社員はただいま呼んできます、とオフィスの奥にあるミーティングルームに通してくれた。肌寒かったロビーと比べれば全体的に暖房がきいているが、なぜか三神峯は悪寒が止まらなかった。寒さを誤魔化すように白衣の襟を整えていると、「毎度この部屋は暑いね」と旗立は言いながら備え付けのドリンクサーバーから勝手にアイスコーヒーを抽出している。隣に座る金剛沢は呆れたようにため息を吐いていた。 「待たせて悪かったね。この後に会議が入っていたのを忘れてたから、手短にお願いできるかな」  一気飲みされたアイスコーヒーのカップが机に置かれたと同時にミーティングルームに入ってきた開発総務部の課長は、そう言って向かい側に座った。事前に資料を送っていたにも関わらず印刷はしていないようでその手にはタブレットだけが握られている。 「よろしくお願いします。では手短に。タブレットのスライド資料をご確認いただいてよろしいですか?」  この後に会議が入っている、という言い訳は何度聞いただろう。彼がそう言うときはだいたい企画概要を聞くのが面倒なときだ。おそらくこの承認を得るまでにはあと数回概要を説明しなければならないだろう。  資料をタブレット内で共有すると、総務課長は「ああ、これもいらない、急いでるから」と手を横に振った。 「今回の見込みと利益を教えてよ。それだけでいい」 「……そうですか。では、スライド資料の2ページを確認いただいてよろしいですか」
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