ep.11

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 研究も概要書も期日は迫るばかり。上の判断がないと動けないものもあるにも関わらず、上は判断に渋るばかりで話しが進まないなんてことは日常茶飯事だ。簡単に判断ができるような研究ではないと言ってしまえばそれまでだが、期日に間に合わなければ、もちろん三神峯の責任になる。 (寒いというか寒気がするし、頭痛い……。なんて説明しよう、取り付く島もなかったなんて言ったら、絶対殴られるし……)  三神峯はもう一度礼を言うと、エレベーターホールには向かわずに重い足取りで非常階段に向かった。エレベーターの脇には備え付けの階段があるため、この非常階段を使う人はほとんどいない。使うとすれば清掃の人が掃除をするときと移動するときだろうか。実はガラス張りの非常階段は、青空が見えて嫌いではなかった。 (あたたかい飲み物でも買ってくればよかったかも……)  三神峯は非常階段に腰を下ろして壁に凭れる。少し前から休むときは非常階段を使うようにしていた。休むと言っても少しの間階段に座って外を眺めているだけだが、誰にも邪魔されない唯一の空間だった。  もちろん本館に行けばカフェやパン屋、飲食店があるし、研究棟にも社員食堂との各フロアの談話ルームには自動販売機が充実している。それでも非常階段を選んだのは、少し前に薬を服用するために談話ルームを使っていたらたまたま通りがかった坪沼に怒られたからだった。若手のお前が談話ルームで休むのはまだ早いと、そんなことを言われた気がする。
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