ep.1

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「……諏訪、たしかに資料はよくできてるよ。諏訪が勉強してるのもよく伝わってくる。でも、これを他人に、しかも医療関係者っていうある程度知識のついた人に説明できるか?」 「それは……」 「俺たちの仕事はこれを提案することだから、資料で専門用語を並べても説明ができないと意味がないよな。付き合うから一緒に説明の流れロープレするか」 「ありがとうございます……!」 「じゃあごめん、30分後に打合せスペース押さえててくれる?」 「わかりました!」  諏訪がその場を離れると、隣に座っていた別の社員が呆れたように笑いながら話し出した。 「御堂主任、諏訪に手をかけすぎじゃないですか? 彼ももう3年目でしょう」  その通り、諏訪はもう3年目だ。真面目な性格から勤務態度も良好だが、どこか空回りをしてしまうタイプでなかなか結果が結びついていない。成績に結びつかない彼を見て、最近では上長や周りの社員までもがあきれたように冷たい視線を送っていることを、御堂は何となく気にかけていた。 「まあ、そうなんだけどね。今年入ってきた新人にも成績を越されそうな勢いだからさ。去年のMR(※)の試験も落としてるし。でもだからって見捨てるわけにはいかないからな」  主任として、出来ないからという理由で見放すことはできない。本人もなかなか成果に結びつかないことに悩んでいるようだし、部下が一人前に成長できるようにするのが上司である自分の責任だと思っている。  そう言えば、興奮したように彼は話し出した。 「僕、御堂主任の部下でよかったっす! いつも僕たちのこと考えてくれますし!」 「それはどうも」 ーーーーーーーー ※MR……医薬情報担当者(Medical Representative)の略。自社の医療用医薬品の情報を病院の医師などに提供するための資格。
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