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「うちの会社は大きいし、営業部と薬研課はそんな簡単に顔を合わせないですけど。それでも、ここで一緒に仕事をした以上、僕は三神峯さんのことをこのまま見過ごすことはできないですよ」
「御堂さん……」
「展示会中も、合間を見てずっと連絡してましたよね。同僚ですか?」
「あ、はい。全部進めることはメモに残して引き継いできたつもりなんですが、研究が滞っていると主任から連絡が来てて……」
「その主任は指示しないんですか? 主任がダメなら係長とか課長とか。三神峯さんが抱えるものなんですか……」
「御堂さん! 三神峯さん! やっと見つけた!」
やるせない怒りを思わず彼にぶつけてしまいそうになり、声が荒らいでしまうのを止めたのは遠くから聞こえた諏訪に声だ。
「ごめん、ブースから離れてて。どうした?」
「……あれ、僕出直した方がいいですかね? すみません、皆さんでそろそろ引き上げようかって話していたので……」
諏訪の言葉に腕時計を見れば、まもなく展示会の終了の時間だった。展示会は明日も続くし今日のところは十分だろう。契約が取れた医療法人の他にも、確度高な布石を打つことはできた。すでに引き上げの準備をしている企業もあり、諏訪の言う通りこちらも引き上げていいかもしれない。
「いや、いいよ。戻ろう。俺部長に報告してから戻るから、三神峯さんと戻ってて」
「はい!」
そう言って盗み見た三神峯の表情は、なんとなく浮かない表情だった。
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