ep.3

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「三神峯さん、本っ当にすごいです!」  ブースに戻る途中、一歩前を歩く諏訪が、興奮をしたように声を上げた。先ほどの御堂の言葉に思わずため息をつきそうになっていた三神峯は諏訪に嫌な思いをさせないよう、慌てて表情を取り繕う。 「……そうかな?」  俺なんかに敬語を使わないでください、と言われたのは展示会が始まってからすぐのことで、聞けば諏訪は三神峯よりも年下だった。そういえば御堂が、入社3年目の若手ですが、と前に言っていたことを思い出した。 「御堂主任が言ってましたよ。三神峯さんは的確な指摘をくれるからこの展示会楽しみだって!」 「それはよかった」  今日の展示会を見る限り、御堂はかなり面倒見がよく正義感が強い性格だ。諏訪の営業は詳しくない三神峯にもぎこちなく映るほどで、話を聞きに来た相手も話したいことが話せない、といった状態だった。自分で営業トークも切り拓けない危うい状態の社員を、本来ならこんな大事な展示会に連れてはこないだろう。きっと、それだけ御堂は諏訪のことを期待している。  だからきっと、話すつもりもない三神峯自身の愚痴もこぼしてしまいそうになるのだ。 「……御堂さんって、普段どんな人?」 「御堂主任ですか? めちゃくちゃ優しいです。僕、研修を終えてからまったく受注できてなくて。周りの態度もだんだん冷たくなってきてるんです。僕があの場にいてはいけない、みたいな」  御堂たちが所属する営業一課は営業部の花形と言っても過言ではないくらい、大事な課だ。その中でいつまでも受注ができなければ、浮いてしまうのは仕方ないだろう。諏訪は言葉を続けた。
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