ep.4

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ep.4

 お疲れ様でした、という言葉をかけながら居酒屋を出る。だいぶ涼しくなった秋の風が、酒で火照った体を冷やすのにちょうどよかった。 「おい、諏訪、大丈夫か?」 「らいじょぶれふ!」 「ダメだな、これ」  諏訪は酒に弱い。毎度営業部で飲み会を開くときもなるべくノンアルコールや度数の少ない酒を飲ませていたが、関西支社の社員は酒豪が多かったらしく、今日は気に掛ける間もなくいつの間にか諏訪は出来上がってしまっていた。すっかり呂律も回らなくなってしまった諏訪を支えながら、御堂はため息をつく。 (俺も三神峯さんのこと気になってたしな……)  酒豪なら営業部にもたくさんいる。だが、普段なら細かく気に掛ける諏訪のことも、今日ばかりは意識がつい三神峯に向いてしまって疎かになってしまったのだ。三神峯は繊細な見た目に反して酒が強いらしく、アルコール度数の高い酒を勧められていても平然と飲み干していたが。 「御堂さん、三神峯さん、二軒目どう?」 「いや、僕たち部下を送らなければいけないんで、今日はすみません」 「そっかー、残念! じゃ、また明日もよろしく!」 「よろしくお願いします」  諏訪を理由にうまく二軒目を断れたことに内心喜びながら、関西支社の社員とは居酒屋の前で別れた。三人だけになった空間に沈黙が訪れる。 (何話せばいいんだ……)  反対側で諏訪を支えてくれている三神峯の顔を、御堂はちらりと見た。白い肌は酒のせいかうっすらと紅潮していて、唇も熟れた果実のように色づいている。その唇に噛みつきたい――。
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